基準値きみのキングダム

SIDE/ 深見恭介


𓐍
𓈒

SIDE/ 深見恭介



きゅっと握られたままの手が、やけに熱い。


自分の手が汗ばんでいる気がして、落ち着かない。かといって、離してしまうのは、惜しい。




俺の葛藤なんて知る由もない杏奈は、安心しきった寝顔をさらして、すうすうと規則正しい寝息を立てていて、その無防備な姿から目が離せずに、ただじっと眺めていると。




カチャ、と扉を開けて部屋に入ってきた杏奈の弟、奈央が俺の後ろで息を呑んだ。





「……姉ちゃんがこんな気の抜けた顔してんの、久しぶりに見た」




奈央はすたすたと俺の隣までやってきて、腰を下ろす。

頬杖をついて、杏奈のことを見つめながら。




「姉ちゃんは、頑固なんすよ。意思が固くて、頭も固くて、意地っ張りで困るんです。……今日だって、こんな熱あるくせに気づかないまま学校行こうとしてたし、自分のことより俺と京香の飯の心配し始めるし」




いっつも自分のことは後回しで平気だって顔してるけど、と奈央は目を伏せる。

それから、ぽつりと口を開いて。




「────でも、ほんとは。全っ然、呆れるほど素直じゃないけど、ほんとは、すげえ繊細で甘えたがりな人なんです」




今さら、驚きもしない。




「知ってる」




ぽろぽろと杏奈の頬をすべり落ちていった、無数のしずくが頭をよぎる。

それだけじゃない、ちょっとしたときの仕草や表情や、他にも、いろいろ。




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