基準値きみのキングダム
「……姉ちゃんが過剰なまでに強がりなのは、俺らのせいでもあるんです。母さんがいなくなって、父さんが忙しくなって、そのとき俺と京香はひとりじゃなにもできないくらい幼かった。だから、俺らのために早く大人にならなきゃって」
奈央はゆっくりと、杏奈の方に視線を戻す。
「姉ちゃんは、俺らには弱いところを見せてくれない。たとえ、俺らがいいよって言ったって、絶対に甘えようとしない。……だから、恭介くんが甘やかしてやってほしいんです」
言われなくても。
甘やかしたい。甘えてほしい。
杏奈は、もっと人に甘えることを覚えていい。
そう思う、……けど。
『もう、帰っちゃうの……?』
上目づかいに細く揺れた声、あまりにも破壊力の高かった “甘え” をふと思い出して、独りよがりに葛藤する。
甘えてほしい────できるなら、それは、俺だけにしてほしい。
たぶん、俺はけっこう面倒くさい男だ。
「気になったんですけど」
「ん?」
「恭介くんって、姉ちゃんの、どこを好きになったんですか」
「あー、それは、……ひみつ」
不服に唇をとがらせた奈央に、ふっと笑う。
教えねえよ。
だって、そんなもん弟にぶっちゃけるとかさすがに小っ恥ずかしいし、なにより。
それはまず、本人に聞かせたいと思うから。