基準値きみのキングダム
「ふは、褒め殺すじゃん」
だって、事実だよ。
私とは違うもん。
深見くんのことは、みんな見たいって思ってるんだから。
「見たい」
「……え?」
「だから、俺は、杏奈がどんな衣装着るか見たいって話。杏奈はこういうの苦手だろうから、くじ引きあてて、内心絶望したんだろうけど」
憂鬱が、たった一瞬で、溶けてなくなるなんて変なの。
代わりにまた心が甘く疼き始める。
深見くんと一緒にいると、体中が変だ。
目はチカチカするし、頬は熱いし、胸はぎゅっとなるし。
「……文化祭、楽しみ」
ほろっとこぼれ落ちたのは、本心だった。
「な」
と深見くんがテノールで同調して、また、心臓が飛び跳ねた。