基準値きみのキングダム
遅れて上林さんに気づいた深見くんは、特に動揺するわけでもなく、涼しい顔をしていた。
『でも、美沙って深見にふられてるよ』
安曇さんの言っていたことが、頭をよぎる。
深見くんは、上林さんの告白を断ったんだよね。
────それは、こんなかわいい女の子に好かれても、仲が良くて付き合いも長くて「美沙」って名前で呼んでいても、深見くんは上林さんのことを好きには……ならなかったってことで。
それじゃあ、私は、と考えて、喉がひきつった。
「……なんか、元気ない?」
すぐ隣から深見くんの声がしてびくっと肩が跳ねた。
いつの間にか上林さんは見えなくなっていて、深見くんが心配そうな顔をしている。
慌てて首を横にふった。
「ううん、大丈夫だよ」
家庭科室に向かう足を無心で動かす。
────元気じゃ、平気じゃ、ない、けれど。