基準値きみのキングダム
だけど。
「……ドレスは、お姫さまが着るものなのにね」
視線を上の方にずらすと、鏡の中の私と目が合った。
ドレスはすっごくかわいいけれど、着る人がこれじゃ、もったいないよ。
ごめんね、着るのが私でごめんね、とドレスに心の中で何度も謝った。
これを着るのが、私じゃない女の子だったら、もっと素敵に見えただろうな。
そう思うと、見ていられなくなって鏡のなかのドレスから視線を逸らす。
「ホック、どうしよう……」
着替え終わったけれど、背中にあるホックは何度挑戦しても、手が届かなくて留められなかった。
仕方ない、とりあえずこの状態で出て、内海さんに留めてもらおうかな。
ホックと格闘するのを諦めて、背中が開いたまま、パーテーションから飛び出した。
「あの、内海さん、ホックが……って、あれ?」
きょろきょろと探すけれど、内海さんがいない。
代わりに椅子に座っている深見くんが答える。
「なんか俺の衣装、教室に置いてきたらしくて、取りに帰るから待っててって」