基準値きみのキングダム
言われるがままに背中を向けると、深見くんの気配が近づいた。
緊張でわずかに体が強ばる。
深見くんの指先が背中に少し触れて、それからうなじに吐息がかかる感触がした。
私から頼んでおきながら、いやでも意識してしまう距離に、呼吸が上手くできなくなる。
カチ、とホックが留まった音がした。
「ん、できた」
「ありがとう」
これでもうずり落ちてしまう心配はない。
胸もとの布を掴んでいた手をようやく離して、深見くんの方をぱっと振り向く。
その反動で、ドレスの裾がふわっと広がって宙に浮いた。
私の全身を捉えた深見くんが、ごくりと喉を動かすのがやけにスローモーションに見えて。
かと思えば。
カシャッ、とシャッターを切る音が突然響く。
「えっ、今写真……」
場にそぐわない明るい音に驚いて目を見開く。
なぜか、深見くんが私に向けてスマホのカメラを向けていた。
びっくりして固まる私に、「あー……」と深見くんは呻いて、ばつの悪そうな表情を浮かべて。
「悪い、思わず。……衝動的に」