基準値きみのキングダム
私のこと、が……?
その言葉の意味を理解した瞬間、くらりと目眩がした。
ううん、理解できなかった。
どうしても、受け入れられなかった。
「……嘘だ」
首を横に振って否定する。
自分で否定したくせに、それに自分で傷ついて、私、ばかみたい。
でも、だって、嘘じゃなきゃおかしいんだよ。
ありえない。
だって、深見くんは学校中でうわさの人気者だし、いろんな人に好かれているし、それでも深見くんがその誰かを選ぶことはなかったんだし。
当然、私なんかじゃ到底つりあわないってわかっている。
身の程はわきまえているつもりだ、だって、私は。
私は、かわいく、ないから。
私は “かわいい女の子” にはなれないから。
たとえドレスを着たって、みんながみんなお姫様になれるわけじゃないんだって、幼い頃とは違って、もうわかっている。
「嘘じゃない。杏奈、ちゃんと聞────」
「嘘、だよ……っ!」
伸びてきた深見くんの腕を振り払って、両手で耳を塞ぐ。聞きたくないよ。
それからくるりと背を向けて、逃げるように駆け出した。
試着の途中だということも忘れて、家庭科室から飛び出して、行くあてもなく走る。
信じられる、わけない。
私がだめなことは、私がいちばんよく知っている。
……痛いな。
これで正解のはずなのに、胸が、ズキズキして、痛くてたまらなかった。