基準値きみのキングダム

「……っ、あの」

「なんで逃げようとすんだよ」

「うっ、だ、だって」

「椋とはふつーに話してるのに、俺はやなの？」




拗ねた口調に、思わずうつむいていた顔を上げる。

そこには透き通った瞳が待ち構えていた。




「やっと、目合った」




ふ、と下がった深見くんの目尻に、胸がきゅうっとなる。

衝動には抗えない。



『杏奈ちゃんは別に恭介のこと好きじゃないんだ』



近衛くんに言われたこと、きっぱり否定できる。心の中でなら。




「あのとき言ったことだけど、俺は」

「っ、だめ、言わないで」


「ちゃんと、聞いてほしいんだけど」


「……や、だって、深見くん変なことしか言わないっ」