基準値きみのキングダム



「それでも、恭介くんは美沙をふったの。それで、杏奈を選んだんだよっ?」




詰め寄るように言われて、何も言えなくなる。




「名前だってそう……。美沙は自分から呼んでってお願いしてはじめて呼んでもらえてるのに、杏奈はそうじゃないじゃん。恭介くんの方から……」




上林さんが目を伏せる。

長い睫毛が影を落とした。




「私がどれだけ杏奈のこと羨ましいか、悔しくてたまらないか、わかるっ?」




羨ましい……?

それは、私の台詞のはずだった。



上林さんが、私を羨ましく思うことなんて、何も。


けれど上林さんはかわいい顔を歪めて、本当に悔しさをにじませている。




「なのに、なんで杏奈はそんな中途半端なの? 正直言って、むかつく。恭介くんの気持ちが要らないなら、ちゃんとふってよ。私にちょうだいよ。……そうじゃないなら」




すう、と呼吸の音がはっきり聞こえた。





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