基準値きみのキングダム
「ファッションショーでグランプリ獲ったら、私、もっかい恭介くんに告白する」
それは、宣戦布告だった。
深見くんも、上林さんも、なんてまっすぐなんだろう。
上林さん自身が言っていたとおり、怖くないわけがない。
告白するのが怖いのは誰しも同じで、それでも勇気をしぼって伝えているんだ。
「揺らいでくれるかもしれないし、諦めないから、譲らないから。……恭介くん、超いい男なんだからね」
うかうかしてたら持っていかれるんだから、と呟いて、上林さんはくるりと背を向ける。
制服のスカートがひらり舞う。
その姿はかわいくて、それ以上に、格好よくて。
いつまでも言い訳ばかりして、殻をやぶれない私が、ばかばかしくなってきた。
『なあ、杏奈の本音を聞かせてよ』
ふと反芻した深見くんの声が、意固地になっていた私の心をこじ開ける。
体育館の戸を押し開けると、秋めいた涼やかな風が私の背中を押すように吹き抜けた。