基準値きみのキングダム
はじめて口にした、好きだって。
言葉にした途端、ぶわっと頭のなかが深見くんのことが好きだって気持ちでいっぱいになる。
押し込めていた分が、全部、一気に溢れ出してくる。
いつからだったんだろう。
好きって言われたとき?
家庭科室での採寸のとき?
風邪をひいてお見舞いに来てくれたとき?
名前で呼ばれたとき?
一緒にごはんを食べたとき?
図書室で、声を、かけてくれたとき?
正確なはじまりはわからないけれど、もうずっと前から、この恋心は走り出していた。
深見くんのことが、とても、とても、好きなの。
理由を全部言葉にするのは難しいけれど、深見くんといると頑なになった心がほぐれていくの。
誰かに頼ることが苦手な私だけど、深見くんはいつも先回りして待っていてくれるから、いつの間にか深見くんにだけ、私のほんとうの甘えたがりな部分が顔を出すようになっていた。
深見くんになら、私の全部、見せてもいいって思えるの。
好きだよ。
だから、ほんとうは、私にだけ好きって言ってほしい。
「……」
マイクをきゅっと握り直して、そこで、体育館がしんと静まり返っていることに気づいた。