基準値きみのキングダム
ハッと我に返って、視線を横に向けると、上林さんが唖然とした顔をしていた。
それから、ざわめきが耳に入ってくる。
私、今、何を。
しかも、マイクを通して、公衆の面前で。
ぐあ、と首から熱がのぼってきて、すぐにキャパオーバーを迎えた。
これ以上、ここにいられない。耐えられない。
「……っ、ごめんなさいっ」
持っていたマイクを無理やり生徒会長に押しつけて、ステージを駆け下りた。
ドレスの裾を踏みかけて、つんのめりながら、それでも立ち止まる余裕なんてなく、そのまま体育館を飛び出した。
逃走だ。
私、なんてことを。
あ、あんな、大勢の人が見ている前で……!
時差で襲ってくる恥ずかしさに死にかけながら、教室のある新校舎にまっすぐ向かう。
ドレス姿だから、走っているだけで、やけに視線を集めてしまうのが、困る。
階段を駆け上る途中、片足からパンプスが脱げて転がり落ちたけれど、それに構っている場合じゃなかった。