基準値きみのキングダム
「知ってる、けど」
「じゃなくて。恭介って呼んでってこと」
深呼吸どころじゃない。
バクン、とまた心臓が派手に動いた。
それって、下の名前で、呼ぶってこと……?
「む、無理。私、男の子を名前で呼んだことないし」
「だからだよ」
「えっ」
「杏奈の、特別が欲しい」
そんな頼み方ってずるい。
断れるわけがないもん。
耳を傾けてじっと待っている深見くんを、うらめしく見つめながら、唇を開く。
「……恭介、くん」
「くんは要らない。もう1回」
「っ、恭介」
「うん、それで」
それで、と頷いた深見くん────じゃない、恭介があんまり甘く笑うものだから、文句のひとつも言えなくなった。
でも、まだ慣れないからしばらくは深見くんって呼んでも、許してほしい。