基準値きみのキングダム



にや、と意地悪く口角をあげる深見くん。
そんな表情すら王子さまで、勝ち目ないって思った。


これ以上、抵抗したって、きっとムダなのだ。




「きょーか、王子さまとおててつなぐ!」

「ちょ、京香それは────」




迷惑だから、と止めようとしたけれど深見くん本人によって遮られる。




「いーよ。その代わり、俺の名前覚えてくれる?」

「王子さまじゃないの?」

「はは。俺はほんものの王子さまじゃないからなー」


「にせもの? お名前は?」

「深見恭介。恭介って呼んでよ」

「きょーすけくん!」




こわいもの知らずの京香は、あっという間に深見くんとの距離を縮めている。

手をつないでにこにこおしゃべりしているふたりの様子を傍観しながら、考える。




どうして、深見くんはここまで優しくしてくれるの?




図書室でアンケートの集計を手伝ってくれたときも、そして今もこうして送ってくれようとしていて……。お人好しだとしても、これは、ちょっとお節介レベル。

どんな優しいひとでも、たぶん、ここまではしない。




仲いい子ならまだしも、深見くんとはほんとうに、クラスメイトということ以外に接点がない。交わることも、きっと、ないと思ってたのに。



男の子がかわいい子を助ける理由はわかるよ。
そうやって、優しくして、オチないかなって下心あるんだって、傍から見てればわかる。




……けれど、あの深見くんが、私を。

こんな私をそういう対象に見ているはずがなくて────。




助けてくれる理由がわからない。

優しくされる理由がない。





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