基準値きみのキングダム
「……え、……っ」
名前を呼ばれて振り向くと、そこには今さっき階段を降りていったはずの深見くんがいて、驚いて目を見開くよりも先に、そっと唇が重なった。
触れるだけのキス。
余韻をたっぷり残して、ゆっくり離れていく。
「な……っ、キッ、いきなり……!」
「いきなり?」
目を白黒させて戸惑う私に、深見くんはくすっと笑った。
「俺はずっと、狙ってたけどな」
ぶわっと顔が熱くなる。
真っ赤になった私の頬をするりと撫でて、深見くんは、とても優しい顔をした。
「また明日」
「……うん、また、明日」
明日の朝が待ち遠しくなる。
朝起きるのが、楽しみになる。
これから毎日ずっと、深見くんがいる限り、私ははやく明日が来ないかなってそわそわしながら眠りについて、会える嬉しさで目を覚ますのだと思うと、それは。
「おやすみ」
どんなおとぎ話の結末よりも、キラキラしているように思えたんだ。
END