基準値きみのキングダム
「なんでそんなムキになってんの」
奈央が容赦ない。
大人げなく京香に助けを求めることにする。
「ね、京香もそう思うよねっ?」
「んー、きょーすけくん、王子さまみたいだったねっ」
うんうん、と頷く。
そう京香の言うとおり────。
「きょーすけくんが王子さまなら、お姫さまは杏ちゃん!」
京香が小さな手のひらで私の頭になにかを載せる。
手探りで手にとると、それは、金色の折り紙でできたティアラだった。
京香のきゅるきゅるとした純粋なまなざしが、ちくりと胸にささる。
「……私はお姫様にはなれないよ」
「どうして? 杏ちゃんがいちばんなのに」
「なれないんだよ、絶対」
私はお姫様にはなれない。
ひらひらふわふわのドレスは似合わない、魔法つかいは助けてくれないし、王子様に見初められることもない。
そんなことは、私がいちばん、よくわかっている。
期待なんて、するだけむだだ。
いいの。
私はこの部屋で京香と奈央というかわいいきょうだいを見守っていけたら、それだけで────……。
「俺は、姉ちゃんが家に人入れるなんて珍しいって思ったけど」
奈央の発言にドキリとする。
そう、私はこの家に誰かを入れることが苦手だ。京香と奈央のこと、大切な家族のこと、ママに代わって私が守っていかなきゃいけない、ここは私が守るべき場所だから。
なのに────どうして、私はあんなにすんなり深見くんにパーソナルスペースをゆるせたのだろう。