基準値きみのキングダム
(3): ガラスの靴はきらめき落ちて
♡
𓐍
𓈒
翌朝、教室にたどり着いて、ああやっぱり深見くんは遠い世界のひとだ、と思い知った。
深見くんの席のまわりには人垣ができている。
同じクラスのひとも、他クラスのひとも、男の子も、女の子も。
きらきらした輪っかの中心で、深見くんはふわふわと曖昧な笑みを浮かべていた。
それは、毎朝のこと。
もう見慣れた光景だけれど、改めて見ると、やっぱりすごい。
私があの輪っかの一部になることなんて、絶対ない。
ほら、期待なんてできるわけがないよ。
奈央だって、さすがにこれを見たら、納得すると思う。
そんな “王子様” が昨日、我が家にいたなんて、なにかの間違いだ。
現実味がなさすぎて、まぼろしなんじゃないかと本気で思えてきて────。
「あ、森下、おはよ」
「っ?!」
突然、輪っかの真ん中から声が飛んできた。
「おっ、おはようっ?」
反射で挨拶を返したけれど、声が不自然にひっくり返ってしまった。
まさか、輪っかの真ん中にいる深見くんが、私に気づくとも思わなかったし、気づいても声をかけられるとは思わなかった。