基準値きみのキングダム
(4): ぐるぐる螺旋階段な感情
♡
𓐍
𓈒
「杏奈ちゃん」
杏奈ちゃん……?
月に1度の席替え。
こういうところだけはツイているのか、運良く教室のすみっこを引き当てた。
ラッキーなはずなのに、私は眉をひそめている。
というのも。
「今日から隣の席、よろしくねー」
「……えと、はい」
「えー、杏奈ちゃん堅いなー。もっとフランクでいーよ? 俺、そーいうの大歓迎」
隣の席に腰を下ろしたのは、近衛くん。
さらりとした黒髪、メガネ、着崩していない制服────見た目は硬派なのに、中身は真逆の男の子だ。
彼の派手な女遊びのことはよくうわさになっているし、うわさだけじゃなく本人も「女好き」だと公言している正真正銘の遊び人。
深見くんと仲が良くて、よく一緒にいるところを見かける。
そして私は、個人的に近衛くんのことが……。
言葉を選ばず率直に言うと、苦手なのだ。