基準値きみのキングダム


「なにって、そんな大したことは……ええと」



なに、話したっけ。

記憶を手繰り寄せて、近衛くんと話したことを思い出す。




『女に一切興味持たないんだよ』

『ポテンシャルはあるのに、もったいないと思わない?』



そういえばそんなことを言っていたなと思うと、考えるより先に口が勝手に動いていた。




「深見くんは、好きなひと、いないの?」

「っ、は?」

「誰にも……本気にならない、なったことないって」

「……うわ、あいつ余計なことしか言わねえ」




この場にいない近衛くんに対して、思いっきり顔をしかめた深見くん。

そして次の瞬間「違うから」と謎の否定をした。




「違うっていうのは」

「あー……うん。あれだろ、つまり。あーもう、変な誤解生みたくないから、全部正直に言うけど」

「……?」



手のひらを後ろ首にやりながら、深見くんは息をついて。



「誰とも付き合ったことがないのは、ほんと。まともな恋愛のひとつすらしたことないのも、ほんと」




いつもに比べて、口調がたどたどしい。


もしかして、手のひらを後ろ首にやるのは照れ隠しなのかもしれない、と気づいてしまった。




「夢見がちとか、ロマンチストとか、からかわれるのわかってるからあんま言わないけど。つうか、敢えて興味ないフリしてんだけど。……俺は、ちゃんと恋がしたいんだよな」


「ちゃんと、恋」




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