基準値きみのキングダム
「ほんとにそれだけ? そんなわけないでしょ」
焦れたように、はあ、と息をついた上林さん。
それからまた私にキッとした視線を向けて。
「恭介くんのこと、好きなの?」
上林さんの質問に、心がざわざわした。
変なざわめき。こんなの知らない。
好きじゃないよ、好きになんかなれない。
お姫様になれないとわかっているのに、王子様に思いを寄せるなんて、そんな無謀なこと、するわけない。
そう頭では思うのに。
心が勝手にゆらゆらして、止められない。
「ねえ、黙ってないで、なにか言いなよ」
違うの。
言葉が出てこないだけ。
“別に、好きじゃない”
そう言うだけのはずなのに、私の唇ははくはくと開閉するだけで、声になってくれなかった。