基準値きみのキングダム
廊下の時計をちらりと見上げた上林さんは、呆れたように息をついて。
「自分の気持ちすらわかんないの? 情けないね」
オブラートに包まない率直な言葉が、ぐさぐさと突き刺さってくる。
それから、上林さんはころっと表情を変えて、にこっと天使のような笑みを浮かべて。
「ね、森下さん、今日の放課後空いてる? 美沙たちと遊びに行かない? カラオケでもボウリングでもゲーセンでも。あ、普通にごはん食べに行くとかでもいいんだけど」
急なお誘い。
美沙たち、の “たち” っていうのは誰なんだろう。
ぱっと思いつくのは、近衛くんとか……それこそ、深見くんとか。
深見くんは、いるのかな。
むくっと興味が湧きかけたけれど、蓋をする。
だって、放課後、かぁ……。
「放課後は、ちょっと」
「用事? それなら他の日でもいーよ、美沙は基本暇だし」
「いや……放課後は、毎日ダメで」
京香のことをなるべく早く迎えに行きたい。
家には奈央もいるし、夕ご飯を早く準備したい。
それは、なによりも大切なことで、譲れない。