基準値きみのキングダム



廊下の時計をちらりと見上げた上林さんは、呆れたように息をついて。




「自分の気持ちすらわかんないの? 情けないね」




オブラートに包まない率直な言葉が、ぐさぐさと突き刺さってくる。

それから、上林さんはころっと表情を変えて、にこっと天使のような笑みを浮かべて。




「ね、森下さん、今日の放課後空いてる? 美沙(みさ)たちと遊びに行かない? カラオケでもボウリングでもゲーセンでも。あ、普通にごはん食べに行くとかでもいいんだけど」




急なお誘い。


美沙たち、の “たち” っていうのは誰なんだろう。


ぱっと思いつくのは、近衛くんとか……それこそ、深見くんとか。

深見くんは、いるのかな。



むくっと興味が湧きかけたけれど、蓋をする。


だって、放課後、かぁ……。




「放課後は、ちょっと」

「用事? それなら他の日でもいーよ、美沙は基本暇だし」

「いや……放課後は、毎日ダメで」




京香のことをなるべく早く迎えに行きたい。
家には奈央もいるし、夕ご飯を早く準備したい。

それは、なによりも大切なことで、譲れない。





< 89 / 262 >

この作品をシェア

pagetop