基準値きみのキングダム
どこからともなく視線が集まってくるのを感じるのは、たぶん気のせいじゃない。
深見くんといるときに向けられる視線の種類と同じで、今の場合、それは上林さんに対してだ。
色鮮やかで華やかなオーラをまとっていて、どこにいても、ひときわ目立つひと。
私だったら居心地悪くて、逃げ出したくなるほどの注目を浴びているのに、上林さんは物怖じどころか気にしている様子さえなかった。
「とうちゃーくっ」
「え? ここって」
「そう、軽音部の部室。空き教室だといちいち鍵借りなきゃいけないし、先生にバレても面倒だし、ここに集まることが多いの。防音になってて、けっこーいい感じだよ」
武道場のとなりにある、2階建てのプレハブ小屋をまじまじと見つめる。
放課後にはここからドラムやらギターの音が漏れてくるから、軽音部の練習場所だってことは知っていた。
秘密基地みたいな見た目だし、てっきり軽音の人しか出入りできないのかと思っていたんだけど……。
「使っていいんだ」
「さあ? わかんないけど、近衛くんがいいって言ってるから、たぶん大丈夫」