基準値きみのキングダム
グレーだとは思うけど、と口にしながら、上林さんは遠慮なくドアノブに手をかける。
ちょっと待って、と止めることもできず。
覚悟を整える前に、ギィィと錆の音を立てて扉が開いてしまった。
「あ、美沙きたー」
「ちょっと遅くね? 美沙が集合かけたくせに、来ねーのかと思ったわ」
多い。
上林さんを待ち構えていたように取り囲む、人、人、人。
プレハブの中にいた人の数は、思っていたよりずっと多くて。
上林さんにとってはこれくらいが普通なのかな、と思いつつも、緊張のボルテージがぐぐっと上がる。
「ごめんごめん。杏奈のこと迎えに行ってたから」
上林さんの言葉に、みんなの視線が一斉に私を向いた。
「あー、これがうわさの」
「森下杏奈、で合ってるっけ、名前」
「合ってる合ってる」
「はじめましてー」
「俺のこと知ってる? 畠っていうんだけど」
知ってる。
というか、知っているひとばかりだった。
一方的に、だけど。
畠くんは、近衛くんと一緒にバンドを組んでいることで知られている。
上林さんに真っ先に声をかけたのは安曇さんで、才色兼備な放送部の女の子。将来は女子アナだって騒がれている。
全員名前までしっかり一致するかは別として、顔はみんなわかる。
だって、有名人しかいない。