売れ残りですが結婚してください
プロローグ
時は大正8年。
山手線「のノ字」運転開始となった東京で、大日本帝国陸軍曹長、古川純一郎と華族である藤木富子は恋に落ちた。
身分差がありながらも二人は逢瀬を重ね、将来を誓い合った。
だがロシア革命に干渉するため同年7月、日、米、英、仏が共同しシベリア出兵することになった。
当時の日本軍の約半数以上が派遣され純一郎もその一人となった。
「純一郎様、必ず……必ず帰ってきてください」
御国のためとわかっていても富子にとっては愛する人。
勝つことよりも無事に帰ってくることを願うばかりだった。
純一郎はゴツゴツした手で、白く透き通る富子の手を強く握りしめた。
「僕はあなたのために必ず帰ってきます。その時は一緒になってください」
富子もまたその手にもう片方の手を乗せ、今にも溢れそうな涙をぐっと堪えた。
ここで自分が泣いたら純一郎を困らせてしまうと思ったからだ。
そしてまっすぐな目で純一郎を見つめた。
「私はあなたの帰りを待つ間、私たちの結婚を認めてもらえるよう親を説得します。それでも反対されるのであれば……藤木の家を捨てあなたについていきます」
それは富子の覚悟でもあった。
純一郎はそんな富子を愛おしそうに見つめた。
「わかりました。だけど無茶だけはしないでください。それと……」
純一郎はポケットから封筒を取り出すと富子に差し出した。
「これは?」
突然のことに不安がよぎる。
山手線「のノ字」運転開始となった東京で、大日本帝国陸軍曹長、古川純一郎と華族である藤木富子は恋に落ちた。
身分差がありながらも二人は逢瀬を重ね、将来を誓い合った。
だがロシア革命に干渉するため同年7月、日、米、英、仏が共同しシベリア出兵することになった。
当時の日本軍の約半数以上が派遣され純一郎もその一人となった。
「純一郎様、必ず……必ず帰ってきてください」
御国のためとわかっていても富子にとっては愛する人。
勝つことよりも無事に帰ってくることを願うばかりだった。
純一郎はゴツゴツした手で、白く透き通る富子の手を強く握りしめた。
「僕はあなたのために必ず帰ってきます。その時は一緒になってください」
富子もまたその手にもう片方の手を乗せ、今にも溢れそうな涙をぐっと堪えた。
ここで自分が泣いたら純一郎を困らせてしまうと思ったからだ。
そしてまっすぐな目で純一郎を見つめた。
「私はあなたの帰りを待つ間、私たちの結婚を認めてもらえるよう親を説得します。それでも反対されるのであれば……藤木の家を捨てあなたについていきます」
それは富子の覚悟でもあった。
純一郎はそんな富子を愛おしそうに見つめた。
「わかりました。だけど無茶だけはしないでください。それと……」
純一郎はポケットから封筒を取り出すと富子に差し出した。
「これは?」
突然のことに不安がよぎる。
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