売れ残りですが結婚してください
翠は忠明の言葉を理解できていないのかキョトンとしていた。

「え？何？よくわかんないんだけど」

「だから––」

と忠明が再度説明しようとすると育が間に割ってきた。

「あのね、翠ちゃんには生まれる前から結婚する人が決まってたみたいなんだって」

かなり軽い言い方をしたが内容は超がつくほど重い話だ。

「私に結婚相手？……え？」

鈍いのかそれとも理解できていないのか。

どちらにせよ翠からしたら異次元のような話で把握する術がないようだった。

だがそれまで黙っていた母の冴子が口を開いた。

「翠は大ばあちゃんを知ってる？」

「うん、写真だけだけど……」

「その大ばあちゃんの遺言で女の子が生まれたらある人と結婚してほしいって言われたの。それがこのソース知ってるわよね」

冴子が手に持っていたのは古川のソース。

「うん」

「その古川の御曹司なの」

「……へー。そうなんだ」

翠はまるでわかっていないようだった。

忠明を始め唯や育、冴子は翠のあまりにも他人事のような反応に目が点になる。

だがここで翠に拒否権などない。

忠明は心を鬼にして翠に告げた。

「年内にお前は古川の長男と結婚しなさい」

母や姉や妹が不安そうに見ている中翠はとりあえず返事しとけばいいのかな？と明らかにた他人事のような返事をした。

父親の誕生日は全くお祝いムードからかけ離れてしまった。

だが、ここで忠明は一番言わなくてはいけないことを言いそびれてしまったのだ。

式まで許嫁と顔を合わすことはないということを……
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