売れ残りですが結婚してください
人を好きになる感情がわからないという人に結婚の良さを言葉で教えるほど難しいものはない。

恋愛や結婚って心や感情が多く働くし、みんながみんな同じ考えを持っているわけではない。

だからと言って適当な返事もできないのだ。

「じゃあ、聞くけど翠ちゃんはその会った事もない人と結婚することに不満はないの?」

「大ばあちゃんの果たせなかった夢を叶えられるのは私しかいないんで」

不満を言う以前で、翠は自分に与えられた使命なんだと感じているのでは?

そこまできっぱり言われたら何も言えない。

でも翠なりに何か思うところがあるから相談したのだと思うと石神は言葉を選ぶかのように口を開いた。

「きっと相手の人も翠ちゃんと同じ思いだよ」

「え?」

「果たせなかった夢を翠ちゃんと叶えたいって相手の人も思ってるのよ。だから連絡があったんだと思う」

だが本心は、戦国のお姫様じゃあるまいし、親の決めた相手と結婚するなんて時代錯誤もいいところ、せっかく美人に生まれたのだから一人の女性として普通の恋愛をしてからでも遅くはないのではと言いたかったのだが、言葉を飲んだ。

「ありがとうございます」

翠はペコっと頭を下げると、お昼ご飯のおにぎりを大きな口でパクッと食べた。

実際石神のことが参考になったかは定かではない。

だけど翠の表情はほんの少し柔らかくなっていた。

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