売れ残りですが結婚してください
「僕は必ず君の元へ帰ってきます。ですがその約束を果たせなかった時、この手紙を読んでください」

「純一郎様?それは一体……」

富子はそれが遺書や遺言ではないかと察した。

「いや、万が一です。封を開けずに済むよう帰ってきます」

純一郎はそう固く誓い戦地へと旅立った。

富子は純一郎が帰ってくるまでになんとか親を説得させようと必死だった。

だが、両親を説得することはできなかった。

富子はもうこの家を捨てるしかないと決意し、いつ純一郎が帰ってきてもいいようにと密かに荷物をまとめていた。

ところがそんな矢先、純一郎と同じ帝国陸軍の長尾啓介が富子の元を訪ねた。

そこで告げられたのは純一郎の戦死だった。

長尾の話では純一郎は戦地で負傷したものの一命は取り留めた。

だがシベリアの厳しさは純一郎の傷を悪化させた。そして治療の甲斐もなく帰らぬ人となってしまった。

富子は哀しみのあまり寝込んでしまう。

「帰ってくるって言ったのに……」

そしてしばらくたって悲しみがほんの少し癒えた頃、旅立つ前に純一郎から手渡された手紙の封を開けることとなった。
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