売れ残りですが結婚してください
「あの……今日はどうぞよろしくお願いします」

翠が深々と頭を下げるとシュウはにこやかな笑顔で頷いた。

だが、翠は早く展覧会に行きたいのか、肩にかけたバッグを外さずそのまま膝の上に乗せた。

そしてシュウを避けるかのようにテーブルの上のお水に視線を置く。

正直なところ翠は、何を話せばいいのかわからなかった。

頭の中は展覧会のことばかりで、カフェでイケメンと会話を楽しむことなど全く考えていなかったからだ。

それが翠の持つ雰囲気で伝わったのか急にシュウがクスっと笑った。

なんで笑われるのかわからず戸惑う翠。

もしかして今着ている服装が変なのかと思った。

でも笑われても仕方がない。

そもそも普段着ない様な服を着ている翠にとってワンピースを着ている自分に違和感しかないのだから。

「やっぱり変ですよね」

シュウはその言葉の意味が理解できなかった。

「え?何が?」

「ですから……この服が変だから笑ったんですよね」

翠はワンピースの胸元を摘んでは離しを繰り返した。

だがシュウの口から出た言葉は意外なものだった。

「違うよ。そのワンピースすごく似合っているよ。僕が笑ったのは君が早く展覧会に行きたくてそわそわしているのが手に取るように分かったからだよ」

「そ、そうなんですか」

似合っていると言われたことと、口に出していないのに心の内を読まれてしまった恥ずかしさで顔が赤くなる。

「とりあえず、コーヒーを飲んでから行こう」

「は、はい」


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