売れ残りですが結婚してください
「今チケット買ってくるから待ってて」
シュウにそう言われたのだが翠が待ったをかけた。
「ここまで連れて来てくださったんですからチケット代は私に払わせてください」
翠のまっすぐな目にシュウは断れなくなった。
「わかった。でも一つ条件がある」
(この人は何かにつけて条件を出す人だな〜)
そう思いながらもそれが何かと尋ねると……。
「夕食はご馳走させて」だった。
せっかくこんな遠いところまで連れて来てくれたのだから食事ぐらい付き合うぐらいたやすいことだ。
「承知いたしました」
あまりにも真面目っぷりにシュウは苦笑いするしかなかった。
翠はあくまでシュウのことを美術館まで連れて来てくれた人という位置付けでしかなかった。
だから美術館に入った途端、翠は目の前の展示物に釘付けでシュウのことを完全に忘れていたのだ。
一つの作品を見るにしてもまず目つきが違う。
大好きな作品ともなると、まるで恋人を見つめるような愛おしさを向けていた。
一方シュウはというと作品を見ることよりも、作品を見ている翠を見ている方が楽しかった。
自分には見せたことのない自然な笑顔を見ることができたことはシュウにとって大きな収穫でもあった。