売れ残りですが結婚してください
「すみませんでした」

翠が90度頭を下げた。

「大丈夫、そんな謝らないでいいから」

一つのことに没頭する翠は時間など忘れ、尾形光琳の作品に見入っていたため美術館を出たのは4時間を超えていた。

「私のダメなところで一つのことに没頭すると周りが見えなくなるんです」

翠は何度も何度も頭を下げた。

だけどシュウは怒った様子などなかった。

「いいんじゃないかな。そういうの」

「え?いいんですか?でも私没頭しすぎて先輩によく注意されます」

「それは心配してのことだと思うよ。だけど何かに夢中になれるって素敵なことでしょ?僕はいいと思うよ。それに僕も今日は没頭して時間を忘れてしまってたから気にしないで?」
すると翠の目がキラッと輝いた。

「シュウさんもいい作品に出会えたんですか?」

「……まあね」

「なんですか?『|燕子花(かきつばた)図屏風』ですか?それとも『紅白梅図屏風』ですか?……それとも『八橋蒔絵螺鈿硯箱(やつはしまきえらでんすずりばこ)』ですか?」

「どの作品も国宝だけあって素晴らしかったね」

すると翠は今まで見たことのないような笑顔をシュウに向けた。

そして光琳の良さをキラキラした笑顔で説明するのだが、シュウの本音はちょっと違っていたことを翠はまだ知らなかった。

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