売れ残りですが結婚してください
「そ、そうでしたね。……はい。はいわかりました。それでは日を改めましてご連絡いたします」

電話を切った忠明はその場から動けなくなった。

心配したのは忠明の妻、冴子だった。

「お父さん、受話器を見つめてどうしちゃったの?」

「どうしよう」

忠明はすがるような目で冴子を見た。

「どうしよって、言わなきゃわからないわよ。そもそも電話は誰から?」

「……古川さんだよ」

その名前に冴子はぼんやりとした記憶を辿った。

「古川さんって……どこかで聞いたことあったわよね〜」

冴子にとってもその程度の記憶だった。

だが忠明が富子の名を出した途端、大きな口を開け「あー!」と全てを思い出したのだった。

「やだ、完全に忘れてた」

「ああ」

それは忠明も同じだった。
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