売れ残りですが結婚してください
忠明は話をす今るなら今しかないと思い、キッチンで冴子の手伝いをしている育を呼んだ。

「話って何?手が離せないの?」

育は拒んだ。だが、冴子は忠明が何を考えているのか手を取るようにわかっている。

「ここはいいからお父さんの話を聞いてあげて」

「え?いいの?」

「いいわよ」

育は怪訝そうに手を洗い、リビングへと向かった。

「で?話って何よ」

唯が話を急かす中、忠明は許嫁の事を順を追って説明した。

初めて聞く話はまるでおとぎ話のようで唯も育も信じられないと言った様子。

何より自分たちの祖父たちまで華族だったことに驚きを隠せなかった。

「それ、作り話じゃないの?」

信じられないのも無理はない。初めて話したのだから。

「証拠なら本家に写真が残ってる。俺は三男だし、俺の親父が生まれるか生まれないかって頃に華族制度が廃止されたからよくわからないがとにかく俺の時は華族だった面影ゼロの質素な生活だったんだ」

忠明の質素という言葉に娘たちは違和感を感じていなかった。

富子おばあちゃんの時はどうだかわからないが、父親の実家は至って普通の家だったからだ。

おまけに富子に関しては仏壇の上にある写真でしか見たことがない。
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