求愛一夜~次期社長とふたり暮らししています~
玄関を入ってすぐのエレベーターホールに向う途中「あれ?」と目を瞬かせた。

行き交う人に紛れた背の高い男性は高木さんだ。ジーンズと黒いTシャツという見慣れない格好だから一瞬分からなかった。でも間違いなく彼だ。

ここが病院だからか、高木さんは覇気がないように見えた。俯きがちで背中を丸めて歩く姿は別人のよう。
会社では一方的に敵意を向けられ、正直なところ彼は苦手。

だが、会社とは異なる弱々しい姿が気になり「高木さん」と声をかけた。

「えっ……」

彼がふらっと顔を上げて私に気づき、目に驚きの色を浮かべる。でもそれは一瞬だ。即座に顔を険しくして声色を尖らせる。

「ここで俺に会ったことは誰にも言うな」


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