求愛一夜~次期社長とふたり暮らししています~
彼は小声でボソッと零し、それ以上何も言わずに足早に立ち去る。

病院に来たことを、そんなに知られなくないの? なんでだろ……。

高木さんの背中を目で追いながら不思議に思う。が、土曜だというのに、やたらと混み合う病院内を見渡し、はたと気づいた。

ここは大学病院だ。
紹介状がないと診療を受けるのに、やたらと時間を取られるから、ちょっとした風邪や怪我で来る場所じゃない。

高木さん、どこか悪いのかな? それとも……。

角を曲がろうとする彼の背を目で追っていると、肘をクイッと引っ張られる。

「美月ちゃん。早く行こう」

「あっ、ごめん。うん、行こう」

じっと見つめてくる凛ちゃんとしっかり手を繋ぎ、止めた足を前に進めていった。

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