求愛一夜~次期社長とふたり暮らししています~

「ええ。高木さんに教えて貰った釣り堀に通ってるって言ってましたよ」

「山田さん。通ってくれてるんだな……」

高木さんの目が嬉しそうに細まる。

「高木君になかなか会えないなぁって、よく零してますよ」

「東京に遊びに来ることがあったら、寄ってみる……」

高木さんは噛み締めるように言い、ビールをグッと飲み干した。目尻が光っていたのは、見なかったことにする。


高木さんが抱えている事情は、山田さんは知らない。

どんな事情があろうと、彼が客先に迷惑をかけたのは事実。
それを言い訳にするのも違うだろうし、高木さんも知られなくはないだろう。

でも、担当替えを申し出たことを、『そこまでさせなくてもよかった』と山田さんは後悔していた。

山田さんは、私の父より少し若い年代だろう。
そんな彼でも悩んだり、悔やんだりする。当前だ。

でも、子供の頃の私は、大人は完璧な存在だと思っていた。

テストだって間違わずに満点を取れる。
友達とだって上手くやれる。
悩みなんてない、完璧な人間なのだと……。

でも、完璧な大人なんていない。

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