求愛一夜~次期社長とふたり暮らししています~
可愛い声でそう甘えられたら、さぞ可愛い女なんだろう。可愛くないから無理だけど。

「星が綺麗だなって思って」

「うん、そうだね……」

私の会話に合わせるよう、上原課長が夜空を仰ぐ。でも彼の瞳は私の知らない世界をも見ているように、どこか空虚な気がした。

遠距離恋愛になる時、彼は言ってくれた。


『会えない分、一緒にいられる時間を大切にしよう』

その言葉通りにしてくれたから、会えなくて寂しくても、なんとかやれていたのに……。

少し肌寒い風が頬を撫でつけ、それが合図のように心がざわつき出す。ザザッと湯の音を立て、彼の唇に口づけをした。

上原課長。私だけを見て……。

心の声が喉元まで出かかった。でも、言えない。口にしたらダメな気がしたから。

重いって思われたらどうしようって……。

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