求愛一夜~次期社長とふたり暮らししています~
様子がおかしい彼が気になるが、余裕のない表情すら堪らなく愛おしい。

情欲に瞳を濡らし、汗ばんだ身体を絡め合う。息を荒くさせながら、刺激の波に呑み込まれていった。



意識を何度も飛ばされながら、彼と明け方まで抱き合った。
早朝に喉の渇きを感じて目を覚ますと、安らかな寝息を立てた彼は起きる気配すらない。

体力に自信がある彼でも、さすがに疲れ果てたんだろう。

眩い陽光を注がれた海は、宝石を散りばめたように美しい。
息をのむほどの絶景を見逃してしまうのは勿体ないが、もう少し寝させてあげよう。

浴衣を肌蹴消させて寝る彼に、毛布をかけてあげたその時。

「ありさ……」

私でない名前が彼の口から洩れ、心臓がドクンッと嫌な音を立てる。

えっ、誰……?

聞き間違いだと思った。
だが、目を見張った私の前で彼は何度も呼び続ける。

私じゃない名前を。知らない女の名前を――。

遠距離恋愛でも上手くやっている。私は愛されている。そう疑うことはなかった。

だが、澄みきった空に突如暗雲が立ち込めたよう、目の前が真っ暗になった――。
< 143 / 165 >

この作品をシェア

pagetop