求愛一夜~次期社長とふたり暮らししています~
でも、どれだけ息をついても、気持ちは晴れない。流れる時と共に、心は重くなるばかりだった。



街が夕闇に包まれた頃。
帰りたくない時に限って、仕事が定時に終わってしまった。きっと日頃の行いが悪いんだろう。

待ち合わせのカフェは、仙台支社から駅をふたつ過ぎたところにある。
パンケーキが美味しくて、上原課長と何度も通った。

行きつけの店だが、今日を最後に行けなくなるだろう。別れ話をした場所には、二度と近づけないだろうから……。

会社を出て、亀のようにのろのろと歩き電車に乗る。駅を降りて、今度は蟻のように小さく歩幅を取って歩く。

ダメだ。行きたくない……。行けない、無理っ……。

彼と待ち合わせたカフェは目の先にある。だが、くるっと踵を返し、来た道を戻った。

上原課長が待ってる。でも、会ったら終わる。
そう思うと足が竦んで、手が震えて無理だった。

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