求愛一夜~次期社長とふたり暮らししています~
きっかけはアイロンのかけ方がどうとか、味噌汁に入れる油揚げの大きさがこうとか。

日常の些細な意見の食い違いから始まり、『他にも、こんなところが嫌だ!」と同居以来、堪りに堪ったうっぷんがコップの水が溢れるよう、だだ漏れになったのだ。

アイロン? 
ちょっとよれてたって誰も見てないって!

味噌汁? 
胃の中に入ったら全部一緒だから!

兄から相談を持ち掛けられた時、頓着のない私は笑い飛ばした。けれど実家に連れて行かれ、真剣に語るふたりを前にしたら、とてもじゃないが本音は言えない。

そんなわけで時間があれば実家に顔を出し、ふたりの仲裁役として一役買った。

兄に平身低頭で懇願されたのもあり、東京に残る羽目になったのだ。

私より三つ上の兄は優しいが、絵に描いたような優柔不断。
嫁と母のバトルに苦しみ、可哀想なことに随分と薄毛になってしまった。

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