求愛一夜~次期社長とふたり暮らししています~
梅雨入りをして五日ぶりの晴天に恵まれた六月。外回りを終えて会社の化粧室に立ち寄ると社内の噂話が耳に入った。
「秘書課の鈴木さん、上原課長を食事に誘ったけど撃沈だってね」
「あんな美人でもダメなんだね。これで振られたの何人目?」
「数えきれないよ。あんなにかっこいいんだし、彼女いるんじゃない?」
「やっぱりそうかあ……」
傍らの女性達がガックリと肩を落とす。
たったいま話題にあがった上原課長は、私の直属の上司だ。
私が働く『株式会社 上原玩具』は歴史ある玩具メーカーで、同業界国内売上高一位の座に君臨する大手企業。
新卒で入社した私、中野美月は営業部に所属して五年目になる。
定時にあがれることは滅多にない多忙な部署で、私は二十名いる営業部員のひとり。
社内規定はそれほど厳しくないから、前下がりのショートヘアは、美容師さんのおすすめな深みのあるショコラブラウン。