求愛一夜~次期社長とふたり暮らししています~
食事をしてから帰る旨を上原課長に連絡して、会社からほど近い定食屋で食事をとることにした。

少々小汚いが味は絶品の店内でジフライ定食を待つ最中、母にメールを送る。

『仕事帰りに寄ります』これでよしっと!


アジフライ定食は値段の割にボリュームがあって、とても美味しかった。

すぐさま完食するとパンツスーツの腰回りがきつくなったが、セルフサービスのお茶を二杯飲んでから会社に戻った。


上原玩具の本社は東京の神田にある。
世界的に有名な電気街、秋葉原のすぐ近くだ。

私が所属する営業部は社員の出入りが多く、普段からドアを開けっぱなしにしている。その為、部内で言い争いをしようものなら、廊下まで声が筒抜けなのだ。


ん? 誰か喧嘩してるっぽいなあ。

エレベーターホールから廊下を進むと、耳に届く声は聞き覚えがありまくり。多分、彼等だろう。

「戻りました」とフロアに顔を出すと、予想した男女がやりあっていた。

「ちょっと休んだ方がいいっすよ! 目が充血してますし」

「私には休む暇なんてありませんから!」

冷ややかに言い返したのは、入社十二年目のベテラン事務員坪井(つぼい)係長。
彼女のそばに立つ男性社員は、私とデスクを横並びにする後輩、山瀬君だ。

パソコンのキーボードを一心不乱に打ち続ける彼女は、たしなみ程度の化粧に背中まで伸びた黒髪をバレッタでひとつにまとめている。

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