求愛一夜~次期社長とふたり暮らししています~
声を擦れ切らせながら、思いを綴っていった。


まだ小学生の頃。
父と母に挟まれて手を繋ぐのが大好きだった。

でも、クラスの男子にその姿を見られてしまう。翌日の学校でからかわれ、私は羞恥で耳が赤くなった。

ある日、その事情を知らない両親を私は拒んでしまった――。


「私は多分……悪いと思わなかった。からかわれたから仕方ないって……思ったんです」

途切れがちで聞き取り辛い声だ。
それでも上原課長は何も問わず、髪を梳きながら耳を傾けてくれる。

だから甘えてしまう彼の優しさに。
つまらない話だって思っても話を止められなかった。

「ふたり共寂しかったと思います。でも、何も言わなかった。だから……私も言えない……」


母と奈々さんの仲裁に入ること。

『自分ひとりじゃどうしようもない』

そう言った兄に頼られること。


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