求愛一夜~次期社長とふたり暮らししています~
ずっと面倒くさいって思っていた。
でも、本当は違った。

仕方がないなあとげんなりしつつ、必要とされたことが嬉しかった。
いつもなら、こんなに感傷的にならない。
だけど今日は……、今日だけじゃない。

どれだけ頑張っても、どうにもならない壁にぶち当たった時。

どうしようもない孤独を感じた時。

負の感情に意識が捕らわれる。
ぼんやりと脳裏に浮かぶのは、居場所を失ったぬいぐるみ達。彼等は私だ。

必死に紡いだ声はそこで途切れた。
こんなどうしようもない話を、上原課長は黙って聞いてくれた。
ドライヤーの音が止み、髪は乾いたようだ。でも上原課長は髪を梳く手を止めず、静かな声を響かせた。


「家族って勝手だよね。遠慮なく好き勝手なこと言うし。それがいいところでもあるんだけどね。だから中野さんも言っちゃえばいいよ」
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