求愛一夜~次期社長とふたり暮らししています~
なんて言えばいいんですか?

眼差しで尋ねたら、視線を膝に落とした彼が口角をゆっくりと引き上げる。

「なんでもいい。もしそれで喧嘩になったら……」

上原課長の瞳が柔らかい弧を描く。
そして私を直視したまま声色をいっそう優しいものにした。


「好きなだけ、ここにいればいい。ここを中野さんの居場所にすればいい」


静寂に落ちた声が身体の芯まで温める。心まですべて……。

優しさに胸を突かれて涙が止まらない。
止め処なく溢れ出る。

ずっと分からなかった。
何が私を不安にさせるのかって。

私は怖いんだ。大切な場所。大切なもの。
当たり前のようにあったものが何かの拍子に突如無くなる。

すると居場所を失ったように、どこへ行けばいいのか分からなくなる。だから確かなものが欲しかった。

ここにいていいよ。

永遠に消えない。魔法のような言葉を私は求めていた……。

どうして彼には分かるんだろう。私にも分からないことを。どうしてこんなに簡単に見抜いて……。
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