求愛一夜~次期社長とふたり暮らししています~
背に声をかけられ、ピタリと歩を止める。瞬間、止まらなければよかったと後悔し、足を動かしかける。

だが、グイッと後ろ手を掴まれ、身動きが取れなかった。

声の主は振り返らずとも分かる。夏輝だ。視線だけ後ろに流したら、当たりだった。
大阪にいるはずの彼が、なぜ東京にいるんだろう。どうでもいい。

「何か用?」

声色を冷ややかにすると、夏輝が掴む手の力を緩めてくれた。解いてはくれなかった。

「冷たいな。メールの返事もくれないし」

「メール?」

貰った覚えなどない。
訝しげに目を細めると、夏輝が不満げに言う。

「先月送ったろ。会いたいって」

「あれ、誤送信じゃなかったの?」

「違う。俺、東京に戻ったんだ。異動願いがなんとか通ってさ」

「だから? もしかして、よりを戻したいとか言わないでよ」

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