求愛一夜~次期社長とふたり暮らししています~
手首に痛みが走った、まさにその時。

誰かの気配を感じるのと同時に、「彼女に何か?」と怒気を孕んだ声が背にかかった。

上原課長っ……。

想いを寄せる彼の声を間違えるわけがない。
咎める声は確かに彼のもので、カツッと靴音を強く鳴らし、夏輝から私の手を剥がしてくれる。

『普段温厚な人は怒らせると怖い』

誰が言い出したか分からない言葉だが、今それを上原課長は体現している。

目に鋭さを帯びた彼の迫力は、近づくことも触れることも躊躇うほど迫力があった。

夏輝も恐れをなしたよう怯むが、すぐに開き直った態度を見せる。

「あなたに関係ないでしょ」

「あります。一緒に住んでますから」

「えっ……」

明瞭な声で言い切られ、夏輝が確認するよう私を一瞥する。

そっか。そう言えば、夏輝も引くだろうし……。

一緒住んでいるのは事実。上原課長は嘘をついているわけじゃない。
言葉をどう捉えるかは、夏輝次第だ。

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