求愛一夜~次期社長とふたり暮らししています~
運賃は上原課長に出して貰うわけにはいかず、彼が財布を出すよりも先に私がサッと支払った。

生活感がある部屋に通したら、さすがに夏輝も諦めるよね……。

そんな安易な考えは、見事なまでに打ち砕かれた。
上原家のリビングに上がった後も、夏輝は納得がいかない面持ちなのだ。

「なんか怪しいんだよな。さっきから苗字で呼び合ってるし、ただのルームシェアとかじゃないのか?」

「なっ……」

なかなか鋭いじゃないの――!?

口から飛び出そうな声をなんとかの喉元で留め、グッと歯を食いしばる。

「それはっ……、付き合ったばかりだし」

「まだそんなんで、一緒に住んでんのか?」

「それは、ねぇ……」

痛いところを狙い撃ちされ、救いを求めるべく黙り込む上原課長に助けを求める。が、彼の姿がどこにもない。どうりで静かなはずだ。

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