求愛一夜~次期社長とふたり暮らししています~
目の前で熱い抱擁を見せつけられたのだ。彼じゃなくても逃げ出したくなるだろう。


リビングがふたりの吐息で満ちた後、柔らかい唇が名残惜しげに離れていく。

伏し目がちに見つめられ、「ごめん」と上原課長が呟くように言った。

「私の方こそ、変なことに巻き飛んでしまって。すみません……」

夏輝があそこまで私に執着するとは予想外だった。
多分、よりを戻そうと言えば、私がホイホイ付いていくと思ったんだろう。

だが、思いがけず拒絶され、意地になっただけの気がする。
なんにせよ、まったく関係のない上原課長を巻き込んだのは事実。

心からの謝罪をすると、彼は何も言わず床に落ちたタオルを手に取る。
それで私の頭をふわりと包むと、優しい手つきで髪を拭いてくれた。そして……。

「巻き込まれたとは思ってない。自分から進んで飛び込んだ」

「えっ……」


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