政略結婚は純愛のように~狼社長は新妻を一途に愛しすぎている~
レセプションの招待客とにこやかに歓談する加賀の隣で由梨も笑顔を浮かべている。
蜂須賀は今日の由梨を華やかだと言ったけれど、由梨から見れば隣にいるこの男の方が、数段上だ。
いつもに増して上質であろうスーツは会場の煌びやかな照明にあたり上品な光沢を見せている。
レセプションの場にふさわしく胸元のポケットからはえんじ色のスカーフをのぞかせて優雅に笑みを浮かべる加賀は眩しいくらいに華やかだ。
招待客への如才無い対応もスマートで、思わず見ほれてしまいそうになりながら由梨は自身も失礼のないよう振る舞うのに必死だった。
「いやぁ、それにしても今井さんの末のお嬢さんがこのように可愛らしい方だとは知りませんでした。」
初老の男性に話しかけられて由梨は頬を染めて俯いた。
会場は相変わらず暑いくらいの熱気で、 それでなくても頬が熱い。
「わ、私はあまり、このような場には出ませんでしたから…。慣れていなくて、申し訳ありません。」
レセプションで加賀についてまわるうちに、由梨は今日自分が呼ばれたことの意味を理解した。
由梨は今井コンツェルンの社員としてではなく今井家の人間として呼ばれたのだ。
由梨が加賀の隣で微笑んでいるだけで、加賀の社長就任を今井家も祝福していることを示すことができるのであろう。
けれど今井家の娘ではあっても表舞台に立つことが極端に少なかった由梨は、自分がこの場に相応しい振る舞いができているという自信がなかった。
「そのように控えめなところも、愛らしい。ぜひうちの息子を紹介したいですなぁ。」
男性のお世辞にもうまく答えられなくて困ってしまっていると、別の招待客と話していたはずの加賀がいつのまにか隣に来た。
「石川会長、彼女はまだお父様を亡くしたばかりですから…。」
さりげなく庇われて由梨は余計に情けない気持ちになる。
手にしているワイングラスを握りしめた。
「おぉ、そうでしたな。これは申し訳ない…お父様のことは残念でした。」
男性が白い眉を下げる。
由梨は口許だけで微笑んで、俯いた。
「ありがとうございます。もともと、体の強い方ではありませんでしたが。…いなくなると寂しいものです。」
実際、生きていた頃もあまり会話があったとは言えないけれど、いないとなると寂しい。
ただでさえ広く寒々しい屋敷が尚更広く感じて二カ月が経った今も慣れない。
「そうですな…。私も母が亡くなった時は…90歳の大往生だったんですが、それでも心にぽっかりと穴が空いたように感じたものです…。」
石川と呼ばれた男性の慈愛に満ちた言葉に誠実なものを感じて由梨は暖かい気持ちになる。
葬儀のときは"お悔やみの言葉"を山程掛けられた。
けれどどれも通り一遍のうわべだけのものだった。
由梨の気持ちに寄り添ってくれる言葉は一つもなかったように思う。
「それでも、いつかは息子に会わせたいですなぁ。」
石川が目を細めて微笑むのにつられて由梨も笑顔になる。
石川が期待するようなことにはならないだろうがこのような人の息子なら優しい人なんだろうと思う。
けれどその時、肩に暖かいものを感じて由梨は振り返った。
加賀が由梨の肩に大きな手を乗せている。
「石川さんせっかくですが、今井君は我が社の秘書室の優秀な人材でして。…辞められたりしたら困るのです。…ご容赦を。」
石川が声をあげて愉快そうに笑う。
「ははは、これはこれは。加賀新社長の鉄壁の守りを崩せそうにはありませんな!」
加賀は優雅に微笑んでいる。
加賀がこのように由梨を庇ってくれるのは、由梨がまだ結婚についての返事をしていないからだろう。
その笑顔を複雑な気持ちで見上げながら、由梨も曖昧に微笑んだ。
蜂須賀は今日の由梨を華やかだと言ったけれど、由梨から見れば隣にいるこの男の方が、数段上だ。
いつもに増して上質であろうスーツは会場の煌びやかな照明にあたり上品な光沢を見せている。
レセプションの場にふさわしく胸元のポケットからはえんじ色のスカーフをのぞかせて優雅に笑みを浮かべる加賀は眩しいくらいに華やかだ。
招待客への如才無い対応もスマートで、思わず見ほれてしまいそうになりながら由梨は自身も失礼のないよう振る舞うのに必死だった。
「いやぁ、それにしても今井さんの末のお嬢さんがこのように可愛らしい方だとは知りませんでした。」
初老の男性に話しかけられて由梨は頬を染めて俯いた。
会場は相変わらず暑いくらいの熱気で、 それでなくても頬が熱い。
「わ、私はあまり、このような場には出ませんでしたから…。慣れていなくて、申し訳ありません。」
レセプションで加賀についてまわるうちに、由梨は今日自分が呼ばれたことの意味を理解した。
由梨は今井コンツェルンの社員としてではなく今井家の人間として呼ばれたのだ。
由梨が加賀の隣で微笑んでいるだけで、加賀の社長就任を今井家も祝福していることを示すことができるのであろう。
けれど今井家の娘ではあっても表舞台に立つことが極端に少なかった由梨は、自分がこの場に相応しい振る舞いができているという自信がなかった。
「そのように控えめなところも、愛らしい。ぜひうちの息子を紹介したいですなぁ。」
男性のお世辞にもうまく答えられなくて困ってしまっていると、別の招待客と話していたはずの加賀がいつのまにか隣に来た。
「石川会長、彼女はまだお父様を亡くしたばかりですから…。」
さりげなく庇われて由梨は余計に情けない気持ちになる。
手にしているワイングラスを握りしめた。
「おぉ、そうでしたな。これは申し訳ない…お父様のことは残念でした。」
男性が白い眉を下げる。
由梨は口許だけで微笑んで、俯いた。
「ありがとうございます。もともと、体の強い方ではありませんでしたが。…いなくなると寂しいものです。」
実際、生きていた頃もあまり会話があったとは言えないけれど、いないとなると寂しい。
ただでさえ広く寒々しい屋敷が尚更広く感じて二カ月が経った今も慣れない。
「そうですな…。私も母が亡くなった時は…90歳の大往生だったんですが、それでも心にぽっかりと穴が空いたように感じたものです…。」
石川と呼ばれた男性の慈愛に満ちた言葉に誠実なものを感じて由梨は暖かい気持ちになる。
葬儀のときは"お悔やみの言葉"を山程掛けられた。
けれどどれも通り一遍のうわべだけのものだった。
由梨の気持ちに寄り添ってくれる言葉は一つもなかったように思う。
「それでも、いつかは息子に会わせたいですなぁ。」
石川が目を細めて微笑むのにつられて由梨も笑顔になる。
石川が期待するようなことにはならないだろうがこのような人の息子なら優しい人なんだろうと思う。
けれどその時、肩に暖かいものを感じて由梨は振り返った。
加賀が由梨の肩に大きな手を乗せている。
「石川さんせっかくですが、今井君は我が社の秘書室の優秀な人材でして。…辞められたりしたら困るのです。…ご容赦を。」
石川が声をあげて愉快そうに笑う。
「ははは、これはこれは。加賀新社長の鉄壁の守りを崩せそうにはありませんな!」
加賀は優雅に微笑んでいる。
加賀がこのように由梨を庇ってくれるのは、由梨がまだ結婚についての返事をしていないからだろう。
その笑顔を複雑な気持ちで見上げながら、由梨も曖昧に微笑んだ。