政略結婚は純愛のように~狼社長は新妻を一途に愛しすぎている~
「今日はすまなかったね。」
帰りの車の中で静かに加賀が言った。
十分広くて居心地の良い車内の中で、それでも窮屈そうに組まれている彼の長い脚を不思議な気持ちで見ていた由梨は、突然の謝罪の意味がわからずに首をかしげる。
「レセプションに出席してもらったことだ。まだ、返事ももらっていないのにパートナー役を務めてさせてしまった。」
あぁと合点して、由梨は首を振った。
「いいえ、大丈夫です。」
レセプションに出席してみてわかったことだけれど、加賀と今井家の間に縁談の噂があると言った長坂の話は本当だった。
今夜由梨は、亡くなった博史の代理のような立ち位置でレセプションに出たはずなのに、まるで加賀の婚約者だとでもいうような態度で接してくる者も少なくはなかった。
加賀はその都度に、やんわりと否定をしてくれたが、どうせ近々そうなるのだろうという特別な目で終始見られていたような気がした。
とはいえ。
自分が隣にいることで今井家と友好関係を保ちつつ加賀が社長に就任したことを世間に印象づけることができたはずだ。
少しでも役に立てたのならそれでいいと、ささやかな充実感を感じて由梨は微笑んだ。
それを見た加賀が眩しそうに目を細めた。
そして躊躇いながら口を開く。
「…返事はいつでもいいと言ったが…。」
いつも物事をよく考えてから口に出す彼にしては珍しいことだった。
「え…?」
由梨は聞き返してしまってから求婚の返事のことを言われているのだということに気がつく。
ゆっくり考えてと言われて、その言葉に甘えてしまっている由梨だが、本当は加賀のように社会的地位がある者がプライベートなことといえ、曖昧にしているのは良くないのかもしれない。
今夜だって沢山の人に疑念の目で見られたのだから。
「いや…。ゆっくり考えてくれ。」
そう言って加賀は流れる車窓の景色に視線を移した。
本当は、さっさと断ってくれと思われているんじゃないかなどという卑屈な考えが浮かぶ。
そうすれば加賀は今井家の中でも最もさえない由梨ではなく、華やかな従姉妹の誰かと結婚することができるのだ。
由梨の心がずんと重くなる。
加賀に求婚されてから数日経つが、本当のことをいうと由梨の中で答えが出る気配は全くない。
断れば従姉妹達の誰かが彼の隣に立つと思うと嫌な気持ちになることは確かだが、だからといって自分が…と想像するとそのほうが有り得ないと思ってしまうのだ。
結婚の話が出て改めて加賀という男のことを沢山知った。
それに胸をときめかせているのも事実だ。
けれど…。
だからこそ…。
自分のことですら満足に決められない、こんな自分はやっぱり彼にはふさわしくないと思ってしまうのだった。
帰りの車の中で静かに加賀が言った。
十分広くて居心地の良い車内の中で、それでも窮屈そうに組まれている彼の長い脚を不思議な気持ちで見ていた由梨は、突然の謝罪の意味がわからずに首をかしげる。
「レセプションに出席してもらったことだ。まだ、返事ももらっていないのにパートナー役を務めてさせてしまった。」
あぁと合点して、由梨は首を振った。
「いいえ、大丈夫です。」
レセプションに出席してみてわかったことだけれど、加賀と今井家の間に縁談の噂があると言った長坂の話は本当だった。
今夜由梨は、亡くなった博史の代理のような立ち位置でレセプションに出たはずなのに、まるで加賀の婚約者だとでもいうような態度で接してくる者も少なくはなかった。
加賀はその都度に、やんわりと否定をしてくれたが、どうせ近々そうなるのだろうという特別な目で終始見られていたような気がした。
とはいえ。
自分が隣にいることで今井家と友好関係を保ちつつ加賀が社長に就任したことを世間に印象づけることができたはずだ。
少しでも役に立てたのならそれでいいと、ささやかな充実感を感じて由梨は微笑んだ。
それを見た加賀が眩しそうに目を細めた。
そして躊躇いながら口を開く。
「…返事はいつでもいいと言ったが…。」
いつも物事をよく考えてから口に出す彼にしては珍しいことだった。
「え…?」
由梨は聞き返してしまってから求婚の返事のことを言われているのだということに気がつく。
ゆっくり考えてと言われて、その言葉に甘えてしまっている由梨だが、本当は加賀のように社会的地位がある者がプライベートなことといえ、曖昧にしているのは良くないのかもしれない。
今夜だって沢山の人に疑念の目で見られたのだから。
「いや…。ゆっくり考えてくれ。」
そう言って加賀は流れる車窓の景色に視線を移した。
本当は、さっさと断ってくれと思われているんじゃないかなどという卑屈な考えが浮かぶ。
そうすれば加賀は今井家の中でも最もさえない由梨ではなく、華やかな従姉妹の誰かと結婚することができるのだ。
由梨の心がずんと重くなる。
加賀に求婚されてから数日経つが、本当のことをいうと由梨の中で答えが出る気配は全くない。
断れば従姉妹達の誰かが彼の隣に立つと思うと嫌な気持ちになることは確かだが、だからといって自分が…と想像するとそのほうが有り得ないと思ってしまうのだ。
結婚の話が出て改めて加賀という男のことを沢山知った。
それに胸をときめかせているのも事実だ。
けれど…。
だからこそ…。
自分のことですら満足に決められない、こんな自分はやっぱり彼にはふさわしくないと思ってしまうのだった。